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東京高等裁判所 昭和45年(う)180号 判決 1970年5月04日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四年に処する。

原審における未決勾留日数中五〇日を右刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人並びに弁護人前田知克、同横田幸雄、同清水芳江連名の各控訴趣意書に記載されたとおりであるからこれを引用する。

被告人及び弁護人の控訴趣意中事実誤認及び法令適用の誤りの主張について

所論は原判決は罪となるべき事実第一五の株式会社「ミワ」におけるダイヤ窃取の事実を認定し刑法第二三五条を適用処断しているが、右は喫茶店「コンパル」においてこれを詐取したのが真相であるから、原判決は事実を誤認し法令の適用を誤ったものであるというのである。

よって考察するに、原判示第一五の事実に対応する公訴事実(起訴状記載の訴因(及び罰条))は、被告人は沖恵美子と共謀の上昭和四四年七月一日ころ、東京都中央区銀座六丁目七番二号所在の株式会社「ミワ」において、山野公敬所有のダイヤ三・〇二カラット一個(時価約五〇〇万円相当)を窃取したものである(刑法第二三五条第六〇条)というにあるところ、記録を調査し、当審における事実取調の結果をも加えて検討すると、被告人は山野公敬から同人所有のダイヤ三・〇二カラット一個の売却斡旋方を依頼されるや、売買の斡旋をするように装ってこれを領得しようと企て、知合の沖恵美子と共謀の上、同女を右ダイヤを買いたいという銀座のバー経営者に仕立て、昭和四四年七月一八日故ら高級車を運転して山野を迎えに行き中央区銀座七丁目七番一号喫茶店「コンパル」に伴い、同女を買主として山野に紹介し、被告人が右ダイヤの売買を斡旋するもののように装って話を進め、山野が持参した封筒入りダイヤの封を切って右ダイヤを沖に示すや、沖においてダイヤを鑑定させた上金五〇〇万円でこれを買い受けると称し、被告人がかねて知っている同区銀座六丁目七番二号所在宝飾店株式会社「ミワ」に右ダイヤを持参して鑑定させることとし、被告人が右売買の斡旋をするものと信用した山野から、同喫茶店において、鑑定を依頼するため一時預ると称して右ダイヤ及び封筒の交付を受けたこと、次いで被告人は右ダイヤを携え、沖及び山野とともに右宝飾店「ミワ」に赴き、被告人においてダイヤの時価の鑑定を依頼してこれを同店員に渡し、その鑑定を受けた後右ダイヤの返環を受けたが、その際秘かに途中で拾った小石を前記山野の持参した封筒に入れ、これと右ダイヤとを懐中に所持したまま、沖及び山野と相前後して同店を出で、沖は途中代金を持参すると称して立ち去り、被告人は山野と同道して再び前記喫茶店「コンパル」に戻った上、被告人は代金を取りに行った沖を待つものの如く装い、山野もこれを信用していたが、やがて被告人は沖の来るのが遅いから電話をかけてくると詐り、前記小石入り封筒を、あたかも右ダイヤが入っているもののように装い、山野の面前のテーブルの上に置き、右ダイヤを携えたまま同店から立ち去り逃走したことを認めることができ、原判決もこれを宝飾店「ミワ」において鑑定依頼後返還を受けたダイヤを小石と擦り替えて窃取したものと認定しているのである。確かに右証拠によれば右山野はダイヤを喫茶店コンパルで被告人に交付した後も、自分一人で「ミワ」に行かしてくれという被告人の申出を断り、沖とともに被告人と同行して宝飾店「ミワ」に赴き、被告人において右ダイヤの鑑定を依頼中も同店内において、被告人の近くにおり、同店から被告人とともに再度喫茶店コンパルに戻り、沖の代金持参を待ち、被告人が電話をかけると詐って立ち去るまで、終始被告人の身辺を離れず、被告人が逃走した後も、封筒の内容が小石であることを知るまではなお右ダイヤを奪われたものとは思わなかったものであって、かかる経緯に徴すると被告人の右所為を窃盗罪に問擬することも強ち不条理とはいえない。しかしながら被告人の意思は被害者山野の意に反してダイヤを窃取するというよりは、同人を欺罔してダイヤの任意交付を受けるにあったことは≪証拠省略≫により認められるところであり、被告人が山野に真実ダイヤの取引をするものと誤信させるべく前記沖恵美子の誘い入れ等欺罔手段につき綿密な計画を樹てたものであることの認められる一方、≪証拠省略≫によれば、山野は、ダイヤを買いたいという沖と、その間売買を斡旋するものの如く装った被告人とを全く信用して右ダイヤを鑑定させるためこれを被告人に交付したものであり、その後沖とともに被告人と同行して右宝飾店「ミワ」に赴いたのは主としてコンパルに残って沖の相手をしているのが迷惑であったためと、併せて、高価なダイヤの売買であるため取引に慎重を期する気持からであって、必ずしも被告人に右ダイヤを托したことに不安を感じ、ダイヤに対する同人の所持を確保するため被告人の身辺を離れなかったものではなかったと認められること等を総合すると、山野は既に喫茶店コンパルにおけるダイヤの交付によってその所持を被告人に移転し、被告人はよって右ダイヤの単独占有を取得し刑法第二四六条第一項にいう「財物ヲ騙取シタル者」に該当するに至ったものと解すべきであり、その後被告人が右ダイヤを携えたまま鑑定依頼のため宝飾店「ミワ」に赴き、鑑定後返還を受けたダイヤに代えて小石を封筒に入れた上、喫茶店コンパルに戻り、右封筒を被告人の面前に差し置いて逃走するまでの一連の所為は既に騙取を遂げた右ダイヤの所持を確保するための事後行為として評価するのが相当である。

それ故被告人の右所為を窃盗罪に問擬した原判決は事実を誤認したものであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、この点の趣旨は理由がある。

よって被告人及び弁護人の量刑不当の主張に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い右窃盗の公訴事実につき検察官の予備的訴因(詐欺)及び罰条(刑法第二四六条)の追加を許可した上、被告事件につき更に判決する。

(罪となるべき事実)

罪となるべき事実第一ないし第一四は、それぞれ原判示第一ないし第一四の事実と同一であるから原判決の記載を引用するほか原判示第一五の事実の本来的訴因たる窃盗罪の認め難いことは前示のとおりであるから、予備的訴因(詐欺)につき次のとおり認定する。

第一五 被告人は山野公敬からその所有にかかるダイヤモンドの売却斡旋方を依頼されたのを奇貨とし、これを騙取しようと企て沖恵美子と共謀の上昭和四四年七月一八日東京都中央区銀座七丁目七番一号所在喫茶店「コンパル」においてダイヤの売却方斡旋の意思がないのにあるように装い右山野公敬に沖を買受人と詐り紹介した上、右ダイヤを鑑定の上買い受ける旨申し詐り、その旨誤信した同人から、即時、同所において、鑑定依頼のため被告人において一時預ると称して右ダイヤモンド三・〇二カラット一個(価額約金五〇〇万円相当)の交付を受けてこれを騙取したものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(再犯となるべき前科)

原判示前科事実と同一であるから原判決の記載を引用する。

(法令の適用)

刑法第二三五条、第二四六条第一項(判示第一五については同法第六〇条を付加する)、第五六条第一項第五七条(判示第五ないし第一五の罪につき)、第四五条前段第四七条、第一〇条第一四条(最も重い判示第一五の罪の刑に第一四条の制限に従い併合加重)、第二一条(原審の未決勾留日数の算入について)。

(裁判長判事 遠藤吉彦 判事 青柳文雄 菅間英男)

<以下省略>

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